10周年!みのおキッズシアターwith末成由美

2015.08.29.sat/メイプルホール

10周年!みのおキッズシアターwith末成由美

 吉本新喜劇の人気女優・末成由美さんと箕面の子どもたちが共演する「みのおキッズシアターwith末成由美」。2006年の初演から毎年続いてきたこの公演が、今年でついに10周年を迎えました。出演した子どもたちは、役者42人、ダンサー12人で、過去最多。キッズシアターを卒業した18歳以上のサポートメンバーも10人加わり、空前の大所帯で稽古が続けられました。
 本番は8月29日(土曜日)、30日(日曜日)の2回公演で、会場のメイプルホール大ホールは詰めかけた観客で連日の大入り満員に。緊張と期待が入り混じる中、ついに開演の幕が上がりました。

みのおキッズシアターwith末成由美 第10弾
きたかぜの神話「Challenge!Challenge!!Challenge!!!」編


 いきなり舞台にあふれる、躍動的なナンバーとカラフルなコスチューム。舞台いっぱいに弾ける、最初から元気全開の華やかなステージ。キッズシアター名物のオープニングダンスに、会場は早くも拍手喝采に包まれます。とそのとき、おなじみのテーマ曲が。末成由美さんの入場です。ひょうきんなようすで中央に進み出た末成さんは、あいさつ代わりにおなじみのギャグを一発ぶちかまし、舞台上の全員がずっこけました。
 「どうですか、みなさん。10年ですよ…。第1回のときは、こんなに続くと思いませんでしたが、年々成長していく子どもたちを見守りながら、この舞台が私にとってもいつしか大切なものになっていました。10年といわず、20年、30年と、これからも私の命の続く限りやっていきます。今日は、ここまでがんばってきた子どもたちを、ぜひ見てやってください」末成さんのあいさつに、また大きな拍手が送られました。

<ストーリー>

 ここは天上の世界。
天使たちが、何やら困ったようすで頭を抱えています。
「きたかぜの神様、このところ元気がないなあ…」
本人にたずねても、理由ははっきりしません。
このままでは、天界の仕事にも支障をきたしてしまいます。
 そこで一計を案じた天使たちは、きたかぜの神様のこれまでの活躍を振り返って、元気を取り戻してもらうことにしました。

●きたかぜの神話第三弾「時をかける友情」編

 自殺願望を持つ、中学生のカエデ。ことあるごとに「死にたい」「生きる意味がわからない」と言ってはばかりません。心配した祖父の虎蔵は、なんとか生きる希望を持ってほしいと諭しますが、カエデは聞く耳を持とうとしないのでした。
そんなある日、学校の社会見学でかつての防空壕を訪れたカエデは、そこで出会った不思議なおばあさんによって、同級生たちと一緒に過去の世界へタイムスリップしてしまいます。
 そこにいたトラゾウという少年は、祖父・虎蔵の若き日の姿でした。時代はまさに戦時中で、カエデたちは当時の過酷な暮らしを目の当たりにします。親を亡くし、雑草や虫を食べて生きている孤児たち。戦死した夫の遺骨を前に「泣いたらあかん」必死に耐える虎蔵の母親。召集令状が届いた兄の鹿蔵は、トラゾウに後を託し、特攻隊員として飛び立っていきます。
 想像を絶する、生活苦と悲しみ。そして夜、不気味な爆音が空から聞こえ…「空襲や!早く防空壕へ!」凄まじい衝撃と爆発音。
 やっとのことではい出してみると、街は炎に包まれていました。打ちのめされ、言葉を失うカエデたち。そこへ、鹿蔵の友人・三郎が、トラゾウを背負ってやってきます。
「しっかりして!」
 トラゾウの避難した防空壕は爆撃で崩れ、一緒にいた孤児たちも生き埋めになりました。駆けつけた三郎はトラゾウを救い出したものの、自分は重傷を負ってしまいます。
「わし…みんなを助けられんかった…」
孤児一人ひとりの名を呼び、ごめんなあ…許してなあ…と詫びながら、三郎は絶命します。
そこへ、再び近づく敵機の爆音。
トラゾウは思わず飛び出して、空に向かって叫びます。
「なんでわしから大事なもんを奪っていくんや!みんなのかたきを取ったる。かたきを取って、わしもみんなのところへ行くんや!」
 それを聞いたカエデは、とっさにトラゾウの前に立ちはだかり

バシッ!

力いっぱいにトラゾウの頬を張り飛ばします。
 「トラゾウ!死んだらあかん!あんたの命は、みんなに守られているんや。あんたが死んだら、お母さんはどうなるの?あんたを守って死んでいった、お父さん、お兄さん、三郎さんの気持ちがわからんの?死んだあの子たちの分まで、あんたは生きなあかんのや。簡単に死ぬなんて言うたらあかん!」
 トラゾウに向かって言い放った言葉。
それは、同時にカエデ自身の胸にも突き刺さっていました。
カエデにはもう、わかっていたのです。
生きる意味がわからない、死にたいと言っていた自分が、どんなに愚かだったかを。
 涙ながらに、カエデは過去を悔い、生きる決意を口にします。
いつしかその背後には、きたかぜの神様の姿が浮かび上がっていました。この子はもう、大丈夫。見守る目は、どこまでもやさしくあたたかでした。

●きたかぜの神話第ニ弾「約束の公園」編

 良平という男の子は、いたずらが大好きな、手の付けられない悪ガキでした。毎日毎日、とにかく思いつく限りのいたずらで、クラスメートも先生も大迷惑。
 そんな良平のクラスでは、マラソン大会が話題になっていました。リタイヤの人数が一番多いクラスは、一カ月間まちの掃除をさせられる…運動の苦手なトヨコは、出場を辞退しようとしますが、「みんなで走ることに意義がある」と説得されます。
 ところが、そこへやって来た良平は「お前なんか走っても無駄」と言い放ち、それを聞いたトヨコは教室を飛び出してしまいます。
先生に叱られて、良平も走って逃げますが、学校から飛び出したところで「危ない!」

 気が付くと、良平は不思議な場所に来ていました。
そこにいた白づくめの変なおっさんは、ここは天界、自分は天使だと名乗り、さらに現れた妙なおばあさんは、きたかぜの神様だといいます。
 「良平くん。君はトラックにはねられて、生死の境をさまよっているんや」
そして、このままだと良平は、永遠に成仏できない浮遊霊になってしまうといいます。
 生き返るための試練。
それは、これまで迷惑をかけてきたクラスメートたちに許してもらい、信頼を勝ち取ることでした。
 期限は三日間。それを一分一秒でも過ぎると、良平は浮遊霊に…。
 一方、クラスメートたちは放課後、公園に集まってマラソンの練習中です。そこへ、友人に説得されたトヨコがやって来ました。良平にさんざんに言われたトヨコですが「あの言葉は間違ってないと思う」。いつも肝心なところで逃げてしまっていた、弱い自分。良平はその弱さを指摘してくれたのだといいます。
「私、やってみる。今度のマラソン大会、完走してみせる!」

 その頃、良平はがっくりと落ち込んでいました。みんなの夢の中に現れてあやまり、許してもらう作戦が、みごとに失敗に終わったのです。あんた、どんだけ悪さしてきたんや…と、きたかぜの神様も呆れ顔。そこで神様は、特別なはからいで、クラスメートのアカネを良平に引き会わせることにしました。
 アカネは、みんなの信頼を勝ち取るために「クラス全員のマラソン大会完走」を提案します。良平が霊体となり、走るみんなを励まし助ければ、きっとできるはず。しかし良平は、トヨコがいる限り全員完走は無理だと決めつけます。そんな良平に、アカネは
「トヨコは、あんたの言ったひどい言葉を、逆に励みにしてがんばろうとしている。いつも逃げていた自分の弱さを叱ってくれたんや、って。トヨコはな、入院しているあんたも一緒に、クラスみんなでゴールしたいって言ってる。それでもあんたは、トヨコはあかんって言うんか?」
 痛烈なアカネの言葉に説得され、良平は試練に挑むことを決意するのでした。

 マラソン大会当日。
良平は走るみんなのそばで、声をかけ励まし続けます。霊体である良平の姿は、目には見えませんが、途中で立ち止まってしまった友人たちも、良平の手助けに力を得て、再び走り始めます。手ごたえを感じる良平。最下位のトヨコも、良平のおかげでリタイヤすることなく走っています。
 しかし、タイムリミットは目前に迫っていました。地上にいられる時間は、残りわずか。一分一秒でも過ぎれば、生き返れなくなる…。
 トヨコが立ち止まってしまったのは、そんなときでした。うずくまって「もう走れない。やっぱり私、あかんかった」
 その刹那、良平は決断しました。
駆け寄って、トヨコを抱き起す良平。大丈夫。走れる。がんばれ。きっとゴールできる。がんばれ…!トヨコのそばで、一緒に走りながら励まし続ける良平の声は、いつしか絶叫となっていました。
 最後の力を振り絞って、倒れこみながらゴールしたトヨコを、クラスメートたちが取り囲みます。トヨコ、よくやった。がんばった。すごい!
 「ううん、違うの。私だけでゴールできたんじゃない。良平君、良平君が一緒に走ってくれたから」それで完走することができた。トヨコの言葉に、みんなはうなずきます。見えない良平の励ましを、みんなも感じていたのでした。

 天界に戻った良平は、もう覚悟していました。タイムリミットに間に合わなかった以上、この先永遠に浮遊霊として過ごすことになります。そんな良平が口にした、たった一つの心残り。
 「お母ちゃんに、謝りたい。朝、お母ちゃんが話しかけるのをろくに聴きもせず、家を出てきてしまった。そんで、もう一度、お父ちゃんとお母ちゃんと三人で、ごはんが食べたい」
 そんな良平の言葉に、きたかぜの神様は
「いいや、君は死なん。ちゃんと生き返って、元の世界へ帰れるで」
 なんと、全ては良平のために、きたかぜの神様が仕組んだお芝居だったというのです。超絶な悪ガキだった良平は、短い間に人として大切なことを身につけました。そのことを忘れないように…きたかぜの神様の言葉を、良平は噛みしめるのでした。

●きたかぜの神話・エピソード「0」森の病院での出来事

 きたかぜの神様は、元は人間でした。それがどんないきさつで、神様になったのか?
 由美というおばあさんは認知症が進み、森の中の病院に入院することになります。
 子どもの患者たちが劇の練習をしているのを見た由美は、「あ、え、い、う」と自分も発声練習を始めました。昔、女優だったという由美のことを聞き、子どもたちは練習を見てほしいと頼みます。快く引き受ける由美ですが、途中で記憶がこんがらがり、子どもたちに「どちらさんですか」とたずねる始末。何事もうまくできなくなった自分に、由美は落ち込みます。
 そんな由美の前に、不思議な少年が現れます。自分のことを神様だという少年は、一人の少女を由美に引き会せるのでした。
「わたしはユーリ。あなた、由美ちゃんでしょう?」
 人懐っこく話しかけてくるユーリに手を取られ、由美はベンチに腰を下ろします。
 ユーリの将来の夢は、女優になること。どうしたらなれるの?と聞くユーリに、まずは病気を治すことだと由美は答えます。わかった、がんばる。由美ちゃんの夢はなに?
 「人生の最後に、ちょっとでも人の役に立ちたい」と由美。でもあかん、病気が進んで、何一つまともにできないんや…。弱気な由美に、ユーリは言います。なんでそんな簡単にあきらめるの?できることからやっていったらいい。
 励ましの言葉に勇気づけられた由美は、いっしょにがんばろうねと、ユーリと指切りを交わすのでした。

 子どもたちが劇の練習で行き詰っているところに、由美が通りかかりました。「ちょっと台本見てもらえませんか」と頼まれ、由美はさらさらと手直しします。すごい、ちゃんとできるようになってる!と感謝する子どもたち。「ところで、この『ユーリ』って書き込みは?」
 あんたらぐらいの年頃で、ユーリって子がおるやろ。その子も劇に入れてやってほしいねん、と頼む由美ですが、子どもたちの回答に衝撃を受けます。
「そんな子、この病院にはいませんけど」
 そこへ、あの自称「神様」の少年がやって来ました。由美は少年に詰め寄ります。ユーリはどこ、ユーリに会せてほしい…。
「ユーリは、もうおらん。この世には」
 その時、すでにユーリは亡くなっていました。
短い命と知って、ユーリは最後に由美に会い、励ましたのでした。
 悲しみに暮れる由美ですが、ユーリとした約束を思い出します。一緒にがんばる、何か人の役に立てるように。でも、私に何ができるんやろう…。
「由美さん。神様になろうよ」
 少年の神様は、由美のような人を探していたと打ち明けます。不器用で、挫折を繰り返してきたけれど、だからこそ人の痛みが、苦しみがわかる。そんな人こそを探していたんや。神様になって、一緒にみんなを幸せにしよう…。
 半信半疑の由美でしたが、こんな私でよかったらと、最後には承諾します。
「どうか私に、力をください。子どもたちのために役立てる力を」
 由美の前に、白く輝く姿のユーリが現れます。天使となったユーリは、由美ににっこりと微笑みかけるのでした。

 それから間もなく、由美は病院で息を引き取ります。そしてその直後から、難病とたたかっている子どもたちに、奇跡が起こり始めます。そのいきさつは、きたかぜの神話・エピソード1「森の病院」編へとつながっていくのでした。

●エピローグ

 長い長い名場面集を見終わって、天使たちもさすがにくたびれたようす。きたかぜの神様、過去の活躍を見て、ちょっとは元気になってくれたでしょうか?そもそも、不調の原因は何だったんですか?
「すねてたんや」
はあ?
「最近、出番が無くてすねてたんや!」
 なんと、確かにここ数年、「きたかぜの神話」本編には、きたかぜの神様は登場していませんでした。その代わり、良く似たおばあさんが登場して活躍していましたが…。
単にすねてただけだった。こんなオチに、大いにのけぞる天使たち。そこへ、
「かみさまー!!」
 全ての登場人物たちが舞台に飛び出してきます。みんな、きたかぜの神様が心配で、駆けつけたのだと。それを見たきたかぜの神様は、
「なんか元気出てきたな。よっしゃ、ほなこれからも、パワー全開でいくで!」
おーっ!と全員がこぶしを突き上げ、舞台はフィナーレへと移っていきました。

 公演を終え、通路から出てくる子どもたち。晴れやかな笑顔、ぐしゃぐしゃに泣き崩れる涙、人でいっぱいのロビーは、あちこちで出演者を囲む輪ができて、いつまでもにぎわっていました。
 打ち上げの席上で、末成由美さんはこんな言葉を残しました。
「今、世界中で、私ほど嬉しい人間がいるでしょうか」

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