2013.09.01.sun/メイプルホール

「なんやて?ぼくのおばあちゃんが、宇宙の最終救世主!?」
吉本新喜劇の人気女優・末成由美さんと箕面の子どもたちが共演する「みのおキッズシアターwith末成由美 きたかぜの神話」。第8弾となる今回は、8月31日(土曜日)、9月1日(日曜日)の二日に渡って上演され、メイプルホールの大ホールは連日の満員御礼となりました。
今回のタイトルは「遙かなる星空の友情」編。宇宙を舞台に繰り広げられる壮大なストーリーを末成さんらと共に演じたのは、公募で集まった小3〜高校生42名でした。3カ月に及ぶ稽古の末に迎えた本番の舞台で、子どもたちはライトを浴びながら、はつらつとした演技、躍動感あふれるダンスを、惜しみなく披露しました。時にはドッと笑わせ、時には涙を誘った2時間余りの芝居は、大きな感動と拍手に包まれてフィナーレを迎えました。
<ストーリー>
人とうまく付き合えず、友だちがいない少年・ユウスケ。夜、塾をさぼって野原で寝転んでいるところに、おばあちゃん(末成由美)と兄が探しに来ます。そこへ、空から不思議な音と光が。「まさか、UFO!?」光の中へ吸い込まれる、おばあちゃんと兄。
二人が消えた…呆然とするユウスケの前に、怪しい者たちが駆け込んで来ます。「しまった、先を越された!」なんとこの者たちは宇宙人で、宇宙の最終救世主を探しに地球へやって来たというのです。それはなんと、ユウスケのおばあちゃん!?さらっていったのは、敵対する別の宇宙人らしい。とにかく一緒に来てくれ…ユウスケはもう一台のUFOに乗り込み、宇宙へと旅立つことになったのでした。
3万光年彼方の天の川星雲群。そこでは、謎の軍団による宇宙人狩りが続けられていました。「女王ラミア様のご命令だ。連れて行け!」被害に会ったさまざまな星の宇宙人たちは、連合して立ち向かおうとしますが、姿も性格もバラバラでうまくまとまり切れません。
ちょうどそこへ到着したユウスケたちは、ことのほか歓迎されます。みんなはユウスケを、事態を打開するための最終救世主と思いこんでしまったのでした。成り行きで、救世主を演じるはめになったユウスケですが…「救世主って、何をしたらいいんや?」
「あなたが、ラミア!?」
謎の軍団の星。連行された被害者の前に、女王ラミアが現れます。その姿は、まだあどけない少女。拉致の目的は…「ラミア様は友だちが欲しいとおっしゃったのだ」
無理やりさらってきて、友だちになれる訳がない。あなたはこの辺の星に迷惑をかけた張本人じゃない!憤る被害者に対して、きょとんとするラミア。
「迷惑?張本人?どうして私と友だちにならないの?」
かみ合わない会話。何を言われても無表情なラミアは、まったく感情というものを持っていないようでした。
そこへ、地球から連れて来られたユウスケのおばあちゃんと兄が到着します。ラミアと対面したおばあちゃんは、友だちになることを約束して、手を握ります。不思議な感覚、ぬくもり…ラミアに、初めて感情らしきものが生まれた瞬間でした。
「はじめの、いーっぽ!」
場面は変わって、遊ぶ子どもたちの元気な姿。古き良き昭和の時代をほうふつとさせる、この星はサンチョーメ星というのでした。
謎の軍団は、この星にだけはなぜか手を出さない。そこに手がかりがあるはず、とやって来たユウスケたちに、サンチョーメ星人たちは意外な反応を示します。「地球人が来た!」色めき立つ彼らの口から語られるのは、意外な事実。
この星にかつて地球人たちがやって来て、開発を進めた。彼らの目的は秘密兵器の製造にあった。凄まじい威力で、小さな星雲群なら一瞬で吹き飛ばす、究極の破壊兵器。ところが試作の段階で手に負えなくなり、地球人たちは後始末を押し付けて逃げて行った。その兵器とは生命体で、しかも人間の、少女の姿をしている。
その名は、ラミア。
一人たたずむラミア。
「私は自分がなぜ存在しているのか、わからない」
やって来たおばあちゃんが、そっと寄り添います。
「あなたはちゃんと、ここにいてる。ちゃんと心を持っている」
おばあちゃんは、しっかりとラミアを抱きしめました。
身の内にあふれる、名状しがたい思い。突き動かされるように、ラミアはおばあちゃんにしがみつきます。初めて、一人の人間として認めてくれたひと、おばあちゃん…。
深く癒されたラミア、いつしかその顔には、満ち足りた微笑みが浮かんでいました。
謎の軍団。その正体は、ラミアが兵器として暴走するのを防ぐため、身辺を警護していたサンチョーメ星人の有志でした。おばあちゃんと出会って後、心から楽しそうな笑顔を見せるようになったラミアの姿に驚く軍団員たち。自分らのやり方が間違っていたことに気付き、拉致した人たちを元の星へ戻すことにします。
「ごめんなさい!」被害者連合を訪れ、頭を下げるラミアと軍団の面々。すっかり事情を聞いた被害者連合は謝罪を受け入れ、今後はお互いに友人として交流していくことを約束します。一件落着、大団円。と思いきや…
「なんでそんな簡単に許せるんや?友だちになれるんや?」
一人で憤慨するのは、ユウスケでした。都合のいい時は救世主にまつりあげておいて、後はほったらかし。ちくしょう、ぼくには友だちがいてないねんぞ…いたたまれず、逃げるように駆け出すユウスケを、呆然と見送る一同。
突如として大音量のアラームが鳴り渡ったのはその時でした。緊急災害警報。かつてない規模の、巨大宇宙竜巻が急接近中。天の川星雲群の、壊滅的被害は免れない…騒然となる一同、どこへ逃げれば?どうすればいい?何もかも、終わりなのか?
「私が行きます」
それは意を決したラミアの声でした。宇宙竜巻と同等のエネルギーをぶつければ、消滅させられるかもしれない…ぎりぎりまで近付いて、それまでに体内の爆弾を取り外し、一か八かの賭けに出る。私は大丈夫、だからみんなは、早く逃げて。
いいえ。みんなここで、ラミアが無事帰ってくるのを待ってる。友だちを置いて行くわけないやろ?
いつの間にかユウスケは、何もない空間にラミアと二人きりで立っていました。
魂で会話する二人。ユウスケは、激しい心の内を明かします。それに応えるラミア。
−怖くないんか?
−怖い。だけど、みんなが待っていてくれる。だからもう、怖くない。
そしてラミアは、友だちになろうとユウスケに提案します。かつて、深い孤独の中にいた二人。だからこそ、心の底で理解し合うことができた…。
ユウスケは、初めてできた友だちに、万感を込めて叫びます。
−きっと、帰ってこいよ!
気が付くと、ユウスケは元の野原にいました。
満天の星空。こうして無事に見えているということは、みんな無事だったんだな。それともあれは、夢だったんだろうか…。彼を呼ぶ、おばあちゃんと兄の声が聞こえてきます。
輝く天の川に向かってユウスケは手を高く掲げます、まるで握手するかのように。その背後に、夢のように浮かび上がる宇宙人たちの姿。ユウスケに応えて、全員が手を差し伸べています。3万光年離れていても、心はつながっている。一つうなずいて、それから駆けだすユウスケの姿を、宇宙の友だちはいつまでも優しく見送るのでした…。